日本を紳士の国に変える 第八十九幕

聡美さんが病室に入ってきた。

 

どうやら聡美さんも知っていたみたいだった。

 

野田は相変わらず、眠ったままだ。

 

聡美さんが野田の眠るベットの横の棚から、

 

一つのメジャーを僕にくれた。

 

「この人がずっと使っていたものよ。この日に遼兵君に渡すように言われていたの。」

 

「ありがとうございます。」僕は野田に目を向けた。

 

静かに眠ったままだ。

 

「早速、天野の息子、そして野田の一番弟子にスーツを作ってもらおうかな!」窪田が屈託なく笑う。

 

採寸の練習はこれでもかと繰り返した。

 

野田に教わった順番でしっかりと採寸をした。

 

オーダー用紙に寸法を記入して、ゆとり量の計算もした。

 

最後まで終えて寸法を確認していると、

 

「見せてごらん。」野田が真っ直ぐに僕の方を見ていた。

 

僕の方に伸ばされた野田の手は、奇妙なほどに細かった。

 

その頼りない手に用紙を挟んだバインダーを渡した。

 

野田はじっくりと用紙を見た。

 

僕をジロっと見た。

 

「大丈夫だ。安心して任せられる。」ゆっくりと笑った。

 

病室の空気が一気に緩んだ気がした。

 

「窪田、ありがとう。わがまま聞いてくれて。」

 

「お前の言うこと聞かないと呪われそうだからな!」

 

僕は少しヒヤリとしたが野田は嬉しそうに、

 

そして楽しそうに笑った。

 

「生地とディテールはもう決めてあるから。

遼兵君の最初の作品はイタリアの名門 

Ermenegildo Zegna エルメネジルド ゼニア 

最高峰の生地。」

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