日本を紳士の国に変える 第八十五幕
僕は少しだけ変われた気がする。
前の職場に居た時の自分よりも。
今の自分の方が好きだと思う。
人生には沢山の分岐点が存在すると思う。
僕が仕事を辞めたことも分岐点だろう。
”辞める”か”辞めないか”
この選択を正解にするのか、間違いにするのか。
それは、未来の僕が過去を振り返った時に
分かることであって選択の時には決してわからない。
一ヶ月前にカノニコのスーツが届いて僕のベットの正面にはいつもそいつがいる。いつだって華麗に輝いている。何度見ても美しいスーツだった。このスーツのために少し高めのシャツとベルトと革靴を購入した。
僕はやりたいことが見つからなかったが、野田の下で働きたいと思うようになっていた。これまで部活動や会社を経験していても、尊敬する人間に出会ったことがなかった。しかし野田と出会って、僕は野田を尊敬したし、憧れになっていた。
ある夜、ビールを飲んでいた父に相談してみた。
「野田さんの会社で僕も働けないかな?」
父は険悪な表情を残して、なんでだ?と聞いた。
「これまで尊敬する人に出会ったことがなかった。でも野田さんと出会って、僕も野田さんのような人間になりたいって思ったんだ。」
「野田が聞いたらかなり喜ぶだろうなぁ。よし、週末野田に会いに行くか。」
父は少しはにかんで見せたが、その奥には薄暗い雲がさしていた。
その時の僕は将来に一筋の太い光が差し込んでいたので、その表情には気づくことができなかった。