日本を紳士の国に変える 第八十七幕
病院の階段を父と登る。
ナースステーションで部屋を確認する父。
野田さんがいる、病室へ歩く。
僕は本当に野田さんがその部屋にいるのか信じられなかった。
病室の前のコンピュータが打った、素っ気ないネームプレート。
その名前を見ると、野田がそこにいることが、
現実として僕の前に重たい空気を落とした。
父が扉をノックする。
部屋の中から女性の声で「どうぞ」と聞こえた。
引き戸を恐る恐る開く。
部屋の片隅にあるベットには
以前の面影を微塵も残すことのない野田がいた。
酸素マスクを被せ、枕に頭を沈めている。
野田の横にピッタリと添う、奥さんであろう人。
父は奥さんであろう人に頭を下げた。
「あなた、天野さんが見えましたよ。」
薄らと目を開けて、笑顔を作ったものだから、酸素マスクが持ち上がった。
奥さんがベットを自動で動かした。
野田が機械に操られて起きる。
「遼兵君、哀れそうな目で見るなよ。」野田が冗談を言った。
僕の笑顔は完全に引きつっていただろう。
「くたばるなよ。」父の言葉は冗談にも聞こえたが、
目だけは本気で真っ直ぐに野田を見ていた。
「今日は何しに来たんだ?」息苦しそうに野田が言った。
「野田さんのところで働かせてください!!」
僕の声は病室でこだまするほど大きなものになった。
野田ははにかみ、痛々しく点滴をぶら下げながら、
親指を立てた。