日本を紳士の国に変える 第八十六幕

 父に野田のところに行くからと言われた時はワクワク感もあったが、少し緊張もあった。僕なんかを野田さんは必要としていないだろうし、野田さんの期待に応える事ができる自信もなかった。

 

 僕が父に相談してから2週間が経ったくらいの金曜日に、明日野田のところに行こうと父が言った。

 

 僕はワクワクと緊張であまりぐっすり眠れなかったが、5時にはしっかりと目が覚めた。野田のところに行く時は必ず朝が早い。しかし一時間経っても父が起きてこないので痺れを切らして寝室まで起こしに行くと、「今日は少しゆっくり出るぞ。」と言った。

 

 僕は興奮して眠ることができなかったから、近所を散歩した。もちろん カノニコのスーツと新品の僕の相棒も一緒に。朝の散歩は優越感を特に感じられた。

朝日が澄んだ空気に包まれている。生活音もあまりなく夏というのを忘れさせてくれるほど、静かで凛と涼しい。夏の朝は好きだ。放射冷却で寒いとも思えるほど冷える。しかしそれがいい。寝ぼけた頭に綺麗な空気が流れ込む。

 

 結局、家を出たのは10時頃だった。野田のところに行く時はいつだって父の心は晴れやかに見えたが、今回の父は重たい表情をしていた。僕はあまり喜ばしくない結果になるのかなと勝手に落ち込んだりした。

 

 大分のインターで降りて、お店のある方向とは逆に、父はハンドルを切った。

「お店こっちじゃないよ?」

「あぁ。野田は今日お店にはいないんだ。」

そうなんだ。と言って深くは考えなかった。

 

 車が止まったところは大きな病院の駐車場だった。

 

「野田さん病院にいるの?」

「少し体の調子が悪いみたいでな。すぐ治るって本人は言ってるんだけどな。」父は笑ったが、本当のことを知っている表情だった。

 

その時は流石に僕にも気付くことができた。

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