日本を紳士の国に変える 第八十四幕

 「野田さん、とても素敵です。」僕の口から漏れたようにでた。

野田の顔は強張らせて、「俺はそっちっ気はないんだ。」と言った。

僕の言い方も悪かったが、

スーツに見惚れてしまっていた僕の反応が

とても嬉しかったようで、照れ隠しみたいだった。

 

”ARMORのスーツは着ている人に自信を与える”

”ARMORのスーツは着ている人に勇気を与える”

”ARMORのスーツは着ている人に希望を与える”

 

スーツの胸ポケットに入った

メッセージカードにそう書かれていた。

 

それともう一つ。

 

”このスーツは貴方の鎧になります

どんなに苦しい時も

貴方の盾となります

戦いに何度負けても、

必ず立ち上がれ”

 

 今日はありがとうと父が言った。

野田は僕の方を見て「若いうちの苦労は買ってでもしなさい。」と言った。

 

 店を出て野田がいつものように見えなくなるまで手を振っている。

 

 僕はスーツを専用の袋に入れて大切に持っていた。

そこで僕は父に質問をした。「スーツのお金って払ったの?」

「何でお前のスーツを俺が買わなきゃいけないんだよ。」

嘘だろ。と思った。

「えっっ!だってめちゃくちゃ高いでしょ!」

「お前が最初に野田に言っただろ?いくらで自信を買えるかって。」

「??10まんえん?」

「あいつの店は変わってんだよ。最初は値段がついてないんだ。お客さんが自分で値段をつけるんだよ。」ニコッと笑った。

 

 

 僕はとんでもない人と話していたように思った。

 

僕もいつかあんな大人になりたいと思った。

 

 帰り道は父のお気に入りの音楽を二人で熱唱しながら

時々、父と野田の昔の話を聴きながら帰った。

 

 

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日本を紳士の国に変える 第八十三幕

  「今日はありがとうございました!」

野田は僕の姿が見えなくなるまで、手を振っていた。

真っ白の歯を全面に出しながらニコニコしている。

 

 リビングでは父がビールを飲んでいた。

僕は階段を上がって自分の部屋に入った。

とにかくワクワクしていた。

 

 僕は今何だってできるんだ。

できない理由を探すより、まずはやること。

”やってみるはない、やるか、やらないかだ”

アラームを朝の6時にセットして、眠りについた。

 

 目覚ましの音で起きると

外に出て散歩をした。

夏の朝はとても清々しかった。

 

 その日から僕は毎朝散歩を日課にして

あとトイレ掃除も始めた。

全てが順調に行っているような気持ちになった。

 

 スーツを取りに行くぞと父が言った。

父と僕は車に乗り込んで、早朝の高速道路を優雅に走った。

 

 お店の中に入ると一着のスーツがハンガーにかかっていた。

とても綺麗で見惚れてしまった。

そのスーツがその部屋のどの装飾よりも輝いて見えた。

人が入っているかのように立体的なジャケット、

発色しているように見えた。

 

 野田が階段を上がってきた。

それが遼兵君の「鎧」だよ。

 

「最高のスーツだ。遼兵君に勇気と自信を与えてくれる。」

フィッティングルームで着替えた。

鏡に映る自分が別人に見えた。

大企業で自信満々でプレゼンをしていてもおかしくない風貌になった。

 

 「これはすごいです。」息を飲んだ。

「当たり前だろ!!そこらへんのスーツを一緒にしてもらっちゃ困る!」

イタリアのカノニコ、それに国内最高峰のスーツの仕立て。

いいのができない訳がない。と自信満々に語っていた。

 

 

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日本を紳士の国に変える 第八十二幕

 片道3時間くらい掛かるが案外疲れなかった。

高速道路の変わらない景色だったが心は弾んでいた。

 

父と来たときと同じパーキングに車を止めて

同じ道を歩いて、野田の会社に向かった。

 

会社に着くと前来たときと同じように

様々な人たちが、それぞれのやり方で仕事をしていた。

 

ぼんやりと僕もこんな感じで働きたいなと思った。

 

二階に上がると、野田がデスクで本を読んでいた。

 

僕の存在に気づくと

あまり驚いた様子はなく、おぉ!と言って席を立った。

 

僕が野田を訪ねた経緯を話すと、

外に一緒に出ようと誘った。

 

外に出ると、日差しが強く差していて

少し暑く感じた。

スーツを着た営業マンが足早に僕たちの前を通り過ぎる。

 

「仕事なんてものはいくらでもある。」

野田が歩きながら徐に語り出した。

「遼兵君、何でもできる状況なのに、何で何も行動が起こせないか分かるかい?」

「わかりませんでした。」

「答えを教えてあげるよ!」

「はい。」

 

「考えているときは前に進んでいるように見えて、スタートラインから一歩も動いていないからなんだ。遼兵君は仕事を辞めたよね?その行動を起こすことが何よりも重要だよ。成功も失敗も行動した人だけが経験できるんだ。」

 

「だから少しでもいいと思ったらまずは行動!小さなことでもいいから何かアクションを起こすことが重要だよ!」

 

野田は近くのカフェに入ってコーヒーを二杯頼んだ。

僕はコーヒーが苦手だ。

チビチビ飲んでいると、

「俺もコーヒーあんまり好きじゃないんだよな。」

 

じゃあ何で頼んだんだ。と心で思った。

 

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日本を紳士の国に変える 第八十一幕

 野田から言葉をもらって以来、僕には朝の日課ができた。

 

部屋の窓際にある鏡の前に立って

 

今日自分が何をやりたいのか、

 

毎朝、自問する時間を設けた。

 

僕は働いていた頃から貯金だけはずっとしていたので、

やりたいと思ったことはある程度できた。

 

旅行に行きたいと思った日は

目的地を決めずに思いつくまま旅をした。

 

会いたいと思った友人がいたので

東京にいたが

朝に家を出て、東京に着いてから

友人に連絡して驚かせたりもした。

 

朝思いついたことをずっとやっていると

案外早い段階でやりたいことがなくなっていた。

 

働かないとなと思う日々が続いた。

しかし何をしたらいいのかが分からなかった。

 

やりたい事も頭に浮かんできたりしていたが

できない理由探しをしている自分がいた。

 

”野田”に会いに行こうと思い立ったのは

そんな日々を続けて一週間くらい経ってのことだった。

 

僕は自分の車で大分に向かっていた。

 

以前行った時よりは遅く出発したが

朝の冷たくて気持ちの良い風を

車の中に滑り込ませながら

流行りの曲を口ずさみながら

高速道路を飛ばした。

 

”野田”に会ったら、

何か霧が晴れるような気がしていた。

 

 

 

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日本を紳士の国に変える 第八十幕

 採寸を始めた野田に僕が訊いた。

「こんな僕でもお金と心に余裕があって、カッコいい大人になれますか?」

 

「俺が遼兵君にはなれないと言ったら、諦めてしまうのかい?

自分の人生を人が無理だと言ったら投げ捨ててしまうのかい?」

 

「いつだって自分が選択しているんだよ。だから遼兵君がなろうと思って行動を起こした瞬間、理想の自分に一歩近づくんだ!!」

 

採寸を進めながら野田がキメ顔をしていた。

 

やっぱりふざけているのかもしれない。

 

採寸が終わって棚にある本のようなものを手に取った。

ページをめくって、これだ!!と叫んだ。

 

VITALE BARBERIS CANONICO 

 

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ターレ バルベリス カノニコ という生地らしい。

 

紺色の綺麗な色の生地だった。

触ってみると

サラサラと赤ちゃんの肌みたいに

気持ちが良かった。

 

スーツには様々な仕様があるらしかった。

袖や裾、襟やボタン、裏の生地やポケットの形。

 

全て父親と野田に決められたのだが、

仕様を決める時の二人は

目を輝かせて、楽しそうに

出来上がりのスーツと僕とを想像しているようだった。

 

 

 「今日は遠くからありがとう!!!また完成したら電話するよ!」

 

野田と別れて、

父と二人で無言で歩く大分の街は

遠く昔に歩いたことがあるような哀愁が漂っていた。

 

僕は別れ際に野田に言葉をもらっていた。

 

「毎日鏡の前に立って、自分が今日やりたいことは何か尋ねてみるといいよ。」

 

明日から実践してみようと心に決めるだけで

 

大きな一歩を踏み出した

そんな気持ちになった。

 

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日本を紳士の国に変える 第七十九幕

 「人生はドライブなんだよ。

晴れの日ばかりじゃないし、雨ばかりでもない、

寒くて辛い時ばかりじゃないし、穏やかな時ばかりでもない。

 

最初は運転するのが楽しくてワクワクしながらドライブしてたんだ。

初めて見るものばかりで楽しいんだよ。

その時は周りなんか気にならない。

自分が行きたい道をひたすらに楽しく行く。

 

でもずっと運転をしていると、最初は自分の車でも充分に楽しいドライブだったのに誰かの車が羨ましくなって。自分の車が周りと比べて劣っているように感じる。

 

そんなこんなしていると、窓ガラスが曇って前が見えづらくなってくる。

そしたらアクセルも踏み込めない。

 

そんな君の横を音楽をガンガン鳴らしながら、窓を開けて楽しそうにドライブする人間が通り抜ける。

その人間を見て君はあの人には特別な才能があるという。

 

私は違うと思うんだ。

アクセルを踏み込む勇気が君にあれば

 

君の前に立ち込める、曇天は一気に晴天になり、

音楽がかかり、ドライブは一気に盛り上がる。」

 

 

人間死ぬこと以外何も約束されていない!!!!と大きな声で叫んで。

 

がははと笑い出した。

 

 

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日本を紳士の国に変える 第七十八幕

 野田は自分のデスクの引き出しからメジャーを取り出して、僕を大きな鏡の前に誘導した。

この部屋に入った時から気になっていた、この大きな鏡の前に、ポカンと突っ立ってる僕と、メジャーを肩にかけてニコニコとしている野田、その後ろに僕たち二人を見守るかのように立っている父。

 

 「鏡には何が写ってる?」野田が聞く。

「冴えない男が映っています。」僕が答える。

「いいや、可能性に満ち溢れた、一人の少年が見える。」野田が言う。

「僕は勉強ができるわけでもなく、運動が得意なわけでもない、仕事もすぐに辞めてしまう。自分の事があまり好きではありません。」鏡に映る自分を見てられなくなった。

 

野田は静かに頷いていた。

 

 「遼兵君はどんな大人になりたいの?」

「お金があって、心の広い人になりたいです。」

「なれないの?」

「なれないと思います。」

「どうして?」

「成功している人は努力家ですし、頭の回転が早くて、荷物の仕分けもきっとうまくできます。」苦笑いをした。

 

「じゃあ君はそうではないから、成功しないんだね。お金があって、心の広い人になるのは、努力家で、頭の回転が早くて、荷物の仕分けが上手な人がなれるのだから、遼兵君にはなれないってことだね?」

「そうだと思います。」

 

 

 僕は野田の質問に答えながら、自分が言い訳をしているような気持ちになってきた。

 

”どんな大人になりたいのか?”

 

この質問の答えが僕が目指すべきところのように思えた。

 

いつの頃からか、この質問に対しての答えを見ないふりしていた気がした。

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