日本を紳士の国に変える 第七十八幕
野田は自分のデスクの引き出しからメジャーを取り出して、僕を大きな鏡の前に誘導した。
この部屋に入った時から気になっていた、この大きな鏡の前に、ポカンと突っ立ってる僕と、メジャーを肩にかけてニコニコとしている野田、その後ろに僕たち二人を見守るかのように立っている父。
「鏡には何が写ってる?」野田が聞く。
「冴えない男が映っています。」僕が答える。
「いいや、可能性に満ち溢れた、一人の少年が見える。」野田が言う。
「僕は勉強ができるわけでもなく、運動が得意なわけでもない、仕事もすぐに辞めてしまう。自分の事があまり好きではありません。」鏡に映る自分を見てられなくなった。
野田は静かに頷いていた。
「遼兵君はどんな大人になりたいの?」
「お金があって、心の広い人になりたいです。」
「なれないの?」
「なれないと思います。」
「どうして?」
「成功している人は努力家ですし、頭の回転が早くて、荷物の仕分けもきっとうまくできます。」苦笑いをした。
「じゃあ君はそうではないから、成功しないんだね。お金があって、心の広い人になるのは、努力家で、頭の回転が早くて、荷物の仕分けが上手な人がなれるのだから、遼兵君にはなれないってことだね?」
「そうだと思います。」
僕は野田の質問に答えながら、自分が言い訳をしているような気持ちになってきた。
”どんな大人になりたいのか?”
この質問の答えが僕が目指すべきところのように思えた。
いつの頃からか、この質問に対しての答えを見ないふりしていた気がした。