日本を紳士の国に変える 第七十四幕
父と話したあの夜、案外早く眠りにつけた。
相変わらず煩い蝉の声に起こされて仕事に向かう支度をした。
今日上司の林に辞めることを伝えようと心に決めていた。心持ちは自然と晴れ晴れとしていたが、少々緊張もあった。それだから朝食を摂る際、”いただきます”を行ってきますと言い間違え目の前に座る父がチラリとこっちを見てきた。
会社に着くと僕が一番乗りだった。いつも通り事務所の掃除をして、トラックを磨きに行った。
駐車場に勢いよく軽自動車が入ってきた。林だ。そんなに勢いよく入ってこなくてもいいだろ。と心で思った。僕は入社して間もない頃から林のことが嫌いだったのかもしれない。
車から降りてきた林の元に勇しく歩いていくと、少しだけ林がうろたえた。
「おはようございます。」
「お、おう、おはよう。お前が怖い顔してこっち歩いてくるから、殺されるのかと思ったわ。」一応嫌われているという自覚はあったようだ。
「突然ですが会社を辞めようと思います。」自分でも驚くほどすんなりと言えた。
「え?いきなり?なんか次の会社とか決まってるの?」
「いえ、まだ決めていません。」
「普通次の会社決めてから、そういった話しない?」
「これから考えようと思います。」
「うん、まぁいいけど。次行った会社では自分がうまく行くと思ってる?どこに行ったって自分が変わらないと、何も変わんないよ?」
とりあえず部長には話しておくから。と言って事務所に入っていった。
林から言われたことには自分でも思っていることが沢山あった。
父親のコネで入社して、上司との折り合いが合わずにすぐに辞める。
会社と上司の愚痴をひたすら言って、自分は荷物の仕分けもろくにできない。
なんか、かっこ悪いな。俺。