日本を紳士の国に変える 第七十二幕
耳の奥を叩くような蝉の鳴き声に起こされた。
よくもまぁ、あんな小さい体であれだけの声を出せるものだと、寝ぼけ頭で感心していた。
昨日、田辺に二時間近く愚痴を聞いてもらったことを思い出した。仕事終わりにいきなり電話をかけて飲みに誘ったのだ。優しいやつだ。
そして自分がこぼした愚痴を一つずつ思い出した。上司の愚痴。会社の愚痴。さらには社長の奥さんの愚痴。
子供の頃に吐き捨てた、こんな大人になりたくねぇな。
その大人に自分がなっている事に、
網戸から入ってくる涼しくも何ともない風を体に浴びながら、
僕は気づいた。
次から次へと流れてくる汗を袖で拭いながら、荷物の入った段ボールをトラックへ積んでいた。
「天野ーー!」林の声だ。言い遅れたが私の名前は天野遼兵。24歳だ。
僕が林のところへ行くと、林はパソコンの前に座っていた。
「これ、どーすんの?」パソコンを指差して僕に聞いてきた。
「いや、ちょっとわかんないですね。」
「若いんだからわかるでしょ!」本当に嫌味なやつだ。
「わかんないです。」正直わかってはいたが、腹の中でこのくらいもできないのか。この馬鹿野郎と思っていた。
それを聞いた林は年齢の若い事務の女の子を呼んだ。僕のことは手で追っ払うように仕事に戻ってと言った。
パソコンは女の子がすぐに直した。
林が女の子に何か伝えると、二人で僕の方を見てニヤニヤと笑い出した。
もう、辞めちゃおうかな。
もう、ここに居たくないや。
深いため息をトラックの荷台に残して扉を閉めた。