日本を紳士の国に変える 第114幕
「実は私もずっとそれを考えているんです。社長がこの会社でやりたかった事。叶えたかった夢を。」
「ははっ、羨ましいな。」
「何がです?!」
「子供の頃、カブトムシを目の前にした子供のような顔をしてるんだもん。いい意味でだよ。大人になって心が踊るようなことがなくなって。子供の頃はただ毎日が楽しかった。」
「それは子供の頃の記憶を美化しすぎているんですよ。子供の頃は子供の頃で悩みがあったと思いますよ。ですが、大人になると怪我するのが怖くなるんですよね。」
「というと?」
「目の前に海があったら飛び込みたくなって、木があったら登りたくなるのが子供です。大人になると飛び込んで溺れたらどうしよう。木に登って落ちたらどうしようって考えてしまうんです。」
「なるほど。確かに大人になるにつれて臆病になっていくのかな。」
私は自分の人生を少しだけ振り返った。
外は人が行き交っているのだろう。雑踏が耳に入ってくる。
クラクションの音、何処かで鳴るサイレンの音。