日本を紳士の国に変える 第七十六幕
世間が休みの土日は僕の心も落ち着いた。
今日は休んでいいと、世間に認められている様に感じるから心持ちも自然と落ち着く。
早朝僕の部屋に父が入ってきた。
「早く支度をしろ。出るぞ。」仕事をしている時でも、ここまで早く起きる事はなかった。
僕は寝ぼけ頭で父の車に乗り込んだ。
車は空いている高速道路を、朝のひんやりと冷たい空気を裂きながら進む。
暖かく大きな日差しがのしのしと登ってきている。
車の中で父は楽しそうに昔の話をしていた。
小さい頃から何回も聞かされたことのある話だ。
いつもなら、聞いているフリをしているが、
今は何故かそれが心地よく感じた。
早朝で気持ちが良いからなのか、仕事を辞めて気持ちが軽くなったからなのかは分からない。
高速道路を降りたところは大分県だった。
大学生の時に温泉巡りにきたことがあった。
父が車を停めた。「ここから少し歩くぞ。」
父は近所を散歩するようにスイスイと目的地まで歩いて行った。
「なんで、大分のスーツ屋さん知ってるの?」
「それはまた後でな。」ニコリとした。
よしここだ!と父が指差したところは二階建ての喫茶店のようなところだった。
「スーツ買う前にコーヒーでも飲むの?」
「そんなお金はない!!」父はとても楽しそうだった。
建物に入ると、そこには沢山の人がいた。デスクのようなところでパソコンをしている人もいれば、バランスボールに乗って読書をしている人もいる。カウンターで豆を挽く店員もいる。打ち合わせをしているグループもあった。
みんながそれぞれにワクワクと楽しそうにしていた。父も一層目を輝かせた。
奥の階段から一人の男性が降りてきた。
体が大きく灰色のスーツにグレーのネクタイをしている。とてもカッコ良かった。
父がその人に歩み寄り、その人もまた父に歩み寄り、がっしりと握手をした。
「大地の息子か!!!」とても大きな声で僕の方を見た。
圧に押されて消えるような声で”はい”というと、
次は大きな声で笑い出した。
なんなんだ、この人は。